日南町美術館で開催の彫刻家ねがみくみこ展『ホルモンと情熱のあいだ』に行ってきた。

日南町美術館で開催中のねがみくみこ氏の『ホルモンと情熱のあいだ』展に行ってきた。この展覧会は全点写真がOKとのことだったので、見るだけでなく思う存分パシャパシャと撮って楽しむこともできた。

まず入ってすぐお出迎えしてくれた、このマッスルスーツ。

この何とも言えない表情。最高の一言!いきなりの強烈な作品で心を奪われる。

 

今回の展覧会ではこのような何とも言えない感情のおじさん顔が非常に印象的だった。

うん、何とも言えなさが伝わってくる。裸にネクタイ、乳首に星。じわじわと来る。

ペヤングが主食の30歳Yokoyamaさん。さっきのおじさんとはまた違った良い表情である。

3人のねこのおじさん。おじさん一つとってもこんなにバリエーションがある。強烈でありながらも、一度見たら忘れられない..、いや忘れたくなくなるような愛くるしさも感じさせるのが本当に魅力的だった。

おじさんの作品だけでなく、動物の作品も印象的だった。

ただ、何とも言えない絶妙な表情は動物作品にも通底している。ただ可愛いだけの綺麗な動物ではなく、本能があらわになっているような美しいだけではない瞬間を切り取っている所に、ねがみさんのこだわりを感じる。

写真は撮り放題だったので、大きくて目を引くこちらの作品を煽った視点でパシャリ。おまるが進化して意志を持ったかのような奇妙な動物?作品だったので、煽るとより不気味さが増す。こんな風に様々な角度から写真を撮って、色んな表情を探す作業も楽しかった。

こちらはおじさんではなく、おばさんと犬の作品。おばさんの姿勢、その後ろの犬の表情、そしてうんこ。この一瞬を作品にしようとしたねがみさんの視点に惚れ惚れする。

今回の展覧会ではこのように作品のタイトルと一言コメント、ねがみさんのイラストが添えられていたが、これらも非常にユーモアが効いていて読んでいて楽しい。タイトルを見て、作品をまた見直すと違った味わいも堪能できる。『犬とババアのほどよい関係』。忘れられないタイトルだ。

他にも色んなねがみさんの作品が見ることができたが、独特なユーモアな視点で世界を切り取った作品もこれまた心に残った。

これは竹を切ろうとした翁が誤ってかぐや姫の頭までぶった切ってしまった作品。一言コメントには『どこ狙ってんだバカヤローとかぐや姫から怒られるヤツ』と書いてあった。確かに、この作品を見るまでは翁は当たり前に竹を上手に切れるものだろうと思っていたが、切る場所を見誤ってしまうことだって十分にあり得るだろう。だって、竹なんかに人がいるなんてありえないシチュエーションなのだから。往年の昔話を独自の新しい解釈で切り取ったねがみさんの視点にとても刺激を受けた。

ちなみに切り取られたかぐや姫の頭も鉈とともに展示されていた。ここだけ切り取るとなんだか翁がかぐや姫をやってしまった殺人現場みたいである。写真に撮っても良いものなのか..?と一瞬戸惑ってしまった。

ユーモアが効いていた作品で個人的に好きな作品の一つ。タイトルは『アイアムブラ』。中学生の夢を叶える優しいラクダ、だということ。ブラジャーが絶妙にラクダのこぶにフィットしているのが面白い。

そしてこの少年の表情。嬉しいのやら、悲しいのやら。見る人によって変わる表情が堪らない。

普通の展示だけではなく、美術館の空間を広く使った展示も印象的だった。

上を見ると何やら吊るされている人が。あれあの人Yokoyamaさんじゃ...。何だかストーリーを掻き立てられる絵面だ。

階段で上がる途中に何やらこのような作品の展示の説明が。どこにあるのかと思ったら、

おった。おじさんが突撃しすぎて壁に刺さっていた。刺さっている場所も相まってシュール極まりない。

ん?『角男かどおとこ』?家の角でプルプルする角男?どんな男なんだ?中々その絵面が想像できないまま、その男を探していたら、

いた。確かに角でプルプルしていた。角男以外の形容の仕方が浮かばないほど角男な男であった。

こちらもタイトルを見て上手い!と思った作品。(タイトルは脚注に)*1

こちらもタイトルを見てツボに入ってしまった作品。(タイトルは脚注に)*2

ほとんどがいい意味でふざけている作品ばかりなのだが、作品作りに使用している木材の種類を説明しているコーナーはとても勉強になった。木材一つとっても種類によってこんなにも特徴が違ってくると、様々な種類に精通していることが非常に大事になってくるし、特徴の違いで表現の仕方を模索するのも楽しそうだな、と感じた。

展示の最後にはこのようなねがみさんのイラストを用いた塗り絵と吹き出しを自由に書き込んで楽しめるコーナーが設けられていた。ねがみさんのユーモアさに感化されたのか、みなさん思い思いにふざけまくっているのが最高であった。

私も書いた。クーピーを使っての塗り絵は久々で楽しかったが、大人になってからふざける機会が削られているためか、こういった時に中々思う存分ふざけることができない自分に少し虚しさを感じた。ねがみさんの何気ない日常をユーモアに切り取る視点を吸収していきたい。

 

主催者のごあいさつの文にて"ねがみくみこは『この世に無用なものはなく、一見くだらなく意味のないように見えるものも笑い飛ばして、人生讃歌を謳いあげよう!』と誘います。"という一文が私の心に刺さった。世の中には正しいもの・美しいものだけでなく、不完全なものも入り混じっているから面白いのだと、一見するとネガティブでほとんどの人からは見過ごされてしまいそうな物事にユーモアな視点を加えて、極上の笑いにしてしまうエンターテインメントな精神に非常に感銘を受けた。どの作品にも根底には"どんなことも笑い飛ばしてしまおう!"という人を楽しませる気持ちが流れているからこそ、一目見た瞬間に強烈に脳裏に刺さり、窮屈な社会で硬直した体をほぐし、忘れられない体験になるのだろうと思った。

調べてみたらこのようなナイトミュージアムという趣向を凝らした展示もやっていたそう。ライトアップするだけでも、より一層エンターテインメント性が増して、あのユーモアな世界観に惹きこまれそうだ。

 

*1:タイトル:縛馬(しばうま)

*2:タイトル:シカー