誰かが誰かを支えている、4人それぞれの描き方がとても良かった 『きみと、波にのれたら』を観終わってみての個人的な感想。

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夜は短し歩けよ乙女』や『ピンポン』などで有名な湯浅政明監督最新作の『きみと、波にのれたら』を鑑賞してきた。はじめにこの映画のビジュアルを見た時は湯浅監督作品だとは全く思わず、監督の他作品を知っている人からすると、このようなラブストーリーものは少々以外に感じるだろうと思った。

はじめはそこまで見る気はなかったのだが、予告編を見てると一体どのような話になっていくのだろう?とどんどんと気になりだしてきて、湯浅監督作品ということも相まって、公開日翌日に観に行ってきた。

単なる2人の恋愛物語で終わるかと思いきや、見終わってみて色々と振り返ってみると、ラブストーリーとしての面白さ以外にも感じることが他にもたくさんあったので、実際に映画を観終わってみての感想をネタバレありで書いてみようと思う。

(湯浅監督作品でアニメ映画なので、客層はどんな感じになるのかと思っていたが、私が見た映画館では9割方、若い女性客だった。主役の声優を務めているEXILEグループの片寄涼太さんの影響が大きいと思うが、普段見るアニメ映画では見ない光景だったので興味深かった。)

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 以下、ネタバレありの感想です。

 

港とひな子の初々しい恋愛模様が甘酸っぱい。

この作品の魅力の一つとも言えるのが港とひな子の恋愛模様だ。出会いからデートのシーンまで、とにかく初々しい甘酸っぱさが画面いっぱいに溢れ出していた。2人で車の中で一緒に主題歌を歌うシーンは特に印象に残る場面で、見ているこっちが照れてしまうぐらいのキュンキュンさがあった。

また街並みの描写であったり、コーヒーやオムライスなどの食べ物の描き方であったりと、細やかな書き込みが2人の恋愛模様を彩っており、それがまたアニメなようでもあり、実写なようでもありと、このアニメならではの映像表現になっていた。

他にも見ていて甘酸っぱくなる気持ちになる場面がたくさんあるので、ラブストーリーとして色んな人が見ても楽しめると思った。

港とひな子を含めて4人それぞれの描き方がとても良い。

2人のラブストーリーとして見ても面白いが、個人的にこのアニメの気に入っている部分は港とひな子を含めてのメインの4人それぞれの描き方だ。

一見完璧そうに見える港も、裏ではたくさん失敗しているし、ものすごく努力をしている。(ひな子に教えてもらいながらサーフィンをしているときの必死に漕ぐ姿なんかは、特に港の努力する性格をよく表している描写だと思う。)

そんな何でもできる港にひな子は惹かれていったのだが、実は港は小さいころにひな子に助けられているのだ。

港とひな子だけではない、港の妹の洋子は夢に向かってひたむきに毎日頑張っているのだが、そんな彼女も港の職場の後輩でもある山葵の何気ない一言がきっかけで変わっていった。

ひな子と山葵は自分にあまり自信がなくて、失敗も多いのだが、そんな彼らも知らないところで2人のことを助けている。誰かが誰かを気づかないうちに支えているのだと、4人の生きている姿を見ていて感じられる展開がとても良かった。

「誰かを助けるヒーローと聞くと、第一線で活躍したり、自分が弱っているときに助けてもらったり、そういうイメージが湧くかもしれません。でも、この生きづらい世の中で真っ当に生きているだけで、きっと誰かのことを助けているんです」

引用元:BuzzFeedNews 湯浅監督インタビュー記事より

https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/masaakiyuasa-kiminami

 上記の記事でも言われているように、生きているだけで誰かが誰かのことを助けているというメッセージのようなものを映像を通して感じられて、見終わった後には背中をポンと押されたような感じを私は味わえた。

 

港とひな子のラブストーリーとしてだけではなく、後半になってからの4人それぞれの内面であったり、生きている姿を描くことで恋愛映画の側面もあるが、どこか人生について考えさせられる映画のようにも見えてきて、見る人によって違う余韻を味わえる良い映画だと思った。

 

個人的には山葵が特にお気に入り。港が事故で亡くなったあと、ランニングをしながら消火栓の場所を覚えたりして努力している姿や、ひな子に好きという気持ちを告白しようとする姿など、彼のとにかくやってみるという生き方には共感しながら映画を観ていた。

 

 

小説 きみと、波にのれたら (小学館文庫)

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