見方がわからないアニメってありますか?アニメ『orange』を視聴して思ったこと。

2016年夏アニメももう終わり、「ちょっと前まで暑い夏だったのになぁ…」と感じる時期なのだが、個人的には今年の夏アニメは『モブサイコ100』『甘々と稲妻』『食戟のソーマ弐の皿』『91days』と色々バリエーションに富んだ内容で楽しめた夏だった。

そんな夏アニメを色々と観てきたのだが、自分はたまに「このアニメはどうやって観たらいいんだろう?」と思う見方がイマイチわからない作品に出くわすことがある。観ていて「一体何をしたいんだろう?」「何を伝えたいんだろう?」と感じるときにこのように思うのだが、今回の夏アニメの中にもそのような作品が一つあった。

その作品の名前は『orange』。

orange-anime.com

原作は読んでおらず、アニメから観始めたのだがこれが中々どうにも内容を理解するのが苦しかった。自分が劇中のような男子3人・女子3人という友達グループで遊ぶ経験を高校時代に全くしてこなかったり、原作を読んでいないため思い入れがないなど偏った見方があったために作品に没入できなかったり・作品が本当に伝えたい内容を汲み取れなかったのも理由の一つに挙げられるのかもしれないが、それでもやはり『orange』は作品世界に入り込むためのハードルが高すぎるように自分は感じた。

ネタバレ込みで個人的に気になった要素をいくつかピックアップしたいと思う。

 

 

 

10年後からの手紙とパラレルワールド

この作品は10年後の自分から友達の一人である翔を救ってほしいという手紙が届くのだが、『orange』の一番重要な要素でもあるこの手紙が中々の曲者。10年後の自分から手紙が届くということから察することができると思うが、この作品はジャンルで言えばSF青春恋愛作品だ。とは言ってもSF要素はこの手紙部分だけなのでメインは青春恋愛アニメの側面が強いのだが、この作品はとにかく「パラレルワールドが~」みたいなことを連呼している印象がある。この言葉を聞くたびに現実味のある作風なのに、一気にSF感ある作風へと引っ張ってしまい観ていてものすごく冷めてしまった。

それに10年後の自分から翔を救ってほしいと手紙が届くのだが、パラレルワールドという言葉が出てくるように、手紙が届いた側の方で翔を救っても10年後の翔を救うことはできないのである。これがまた話をややこしくさせていて、パラレルワールドなんて言ったら翔が生きている未来・死んでいる未来なんて無数にあるわけだし、10年後の菜穂たちからしたら例え手紙を送ったとしても現在に影響がでるわけでもないので、見ていると「何でそんなに頑張らなくてはいけないのか?」という気分にさせられる。菜穂は須和との間に子供もできて家庭があるのに、10年経った今も翔が死んだということを受け入れて前に進もうとしないように見えてしまうのもずっと過去の後悔に囚われているようで、10年後の面々は今の生活は幸せではないのかと心配になってしまう。

 

手紙の内容

この手紙には翔を救うために事細かに色々な出来事やアドバイスが書かれている。手紙を受け取った菜穂たちはこの通りに行動しようとするのだが、これもまた観ていて混乱させてしまう要因の一つだった。まず手紙の内容を見て行動するという一連の流れによって、菜穂たちが自分たちで考えて行動を起こしているようには見えず、10年後のパラレルワールドの別世界の人間の操作によって動かされているようにしか見えないので登場人物に非常に共感しにくい。劇中では「本当にこれで良かったのか?」「もしかして未来が変わってしまったのではないのか?」と悩み葛藤する様子も描かれてはいるが、それでもこんな予言みたいな手紙を翔以外の5人が持っているのであれば、ある程度先回りすることも容易なので、どうもそれぞれが苦労して翔を死という運命から救うことができたという喜びを観ていて感じにくい。

 

菜穂や翔や須和の恋愛部分

翔を救うことがメインではあるが、『orange』を観ているとやはり翔と菜穂の恋愛が気になってしまうように作られている気がする。しかし、やはりここにも手紙があることによって恋愛の部分に注目すればいいのか?翔を救出することに注目すればいいのか?と観ていて訳がわからなくなってしまった。

翔は菜穂に好意を寄せてるのは観ていてすごく伝わってくるが、肝心の菜穂の方が手紙のことで頭が一杯なのかもしれないが、明らかに両想いのはずなのに中々付き合おうともせず、「手をつなごう」みたいなアピールを翔が菜穂にしたとしても菜穂がキョトンとしている姿が観ていて非常に辛かった。手紙によって翔を救わなくちゃ…と菜穂の生活が手紙中心になることで、菜穂は翔のことが好きなのか?好きなら付き合いたいのか?という菜穂個人の気持ちがイマイチ伝わってこなかったのが余計話をややこしくさせてしまっている。

また須和の方にも手紙が届いているが故に、自分も菜穂に好意を寄せているはずなのに菜穂と翔が付き合うことが翔のためになり、結果救うことになると信じているがために身を引いて二人をサポートする側に回る自己犠牲のような姿も観ていて本当に辛かった。また翔と菜穂が付き合うことが正しいと言わんばかりの描かれ方をしていたがために、10年後菜穂と須和が結婚して子供ができている姿を見ても、あまり幸せそうに見えないのも須和目線から見たら二重に観ていて辛い気持ちになった。

 

色々と気になる部分を書いてきたが、年代や人生経験によって『orange』の感じ方は人それぞれだと思うので一概には言えないが、自分としては「死ぬ運命の翔を未来から届いた手紙によって救うタイムリープみたいな物語」か「シンプルに菜穂と翔の恋愛模様を描いた物語」なのか、はたまた「10年後の菜穂たちの姿を見て過去に手紙を送るほど後悔した人生を歩まないように気を付けて欲しいという反面教師的な物語」なのか…『orange』を観ていて「一体どうやって観たらいいの?」と解釈に苦しむ作品ではあった。

この作品全体的な雰囲気や空気感はものすごく良かったので、個人的には手紙のことで自分たちのことを後回しにしていたあずさや萩田の関係、貴子の胸の内など深く掘り下げてくれたら面白くなっていたと思う。

 

僕だけがいない街』のように現実にSF世界観が溶け込んでいるような作品であっても、見せたいところを強く見せる演出や引き込ませ方によって現実味のある雰囲気にSF要素が入り込むことで生じる没入感の妨げをなくし、どっぷりと世界観に浸れる作品もあるので、『orange』も一番重要なアイテムでもあり、一番作品と観ている人との間に壁を作ってしまう「未来からの手紙」という要素をもう少し上手く活かせば良かったんじゃないかと、全話視聴してみて感じた。